■青年期の男女の恋愛と自立をリアルに描きたかった
――映画企画の候補となるいくつかの文芸小説のなかから本作を選ばれたそうですが、物語のどういった部分に惹かれたのですか?
タムラ まず、タイトルがとても目を引きました。本作の原作は短編集のひとつですが、収録されていた作品のなかでも群を抜いて不思議な浮き方をしていたんです。リアルな話ではあるけれど、少しだけ地に足がついていない感じがする。そのふわっとした感じが、アニメにしたらハマるのではないかなと思いました。
――アニメとして作るに当たって重きを置いたポイントはどこでしたか?
タムラ 一番重きを置いたのは、「自立」でしょうか。本作は恋愛ものですが、恒夫が22歳で、ジョゼは24歳なんですね。制服を着たティーンの男女が主人公の恋愛アニメが多い印象があるなか、設定で独自性が出ると思いました。現実で恒夫やジョゼの年齢の人は、就職や社会に出ることが目の前に見えているから、夢の着地点が現実的になる。青年期のキャラクターの自立を描くというのはチャレンジのしがいがありました。
――ジョゼの空想世界を描いたシーンの印象もあるのか、試写で観た方からは「キラキラしている」という感想が多いそうですね。
タムラ 実際は、ジョゼが30秒くらい微動だにせず、下を向いて背中でしゃべっているだけのシーンなど、暗い場面もあるんです。ただ、最終的に前向きな話になっているので、そこがとくに印象に残った結果、キラキラしていると感じられるのかもしれません。また、人を好きになっていく過程を主観的に表現したいという思いがあり、恋をして視野が狭くなったり、世界が輝いて見えたりしているような追体験を、見てくださる方がしてくれたのかも、と思っています。キャラクターに関しては、髪にハイライトは入れていませんが、ほつれ毛を光らせたり、瞳をキラキラさせたりするシーンがあったので、その印象も強いのかもしれません。
――原作のラストは、将来のジョゼと恒夫に関してさまざまな解釈ができます。
タムラ 解釈がたくさんできるのも原作の魅力のひとつだと思います。アニメはアニメなりのラストを最初に決めて、そこに向かって物語を描いていきました。ジョゼや恒夫がこのラストシーンにたどり着くのが当然という、説得力のある動かし方ができたのではないかと思っています。
12月28日発売のメガミマガジン2月号では、このインタビューの続きを紹介。ジョゼのキャラクターデザインに関するこぼれ話や、ジョゼ以外の女性キャラクターたちの魅力についても聞いています。
■プロフィール
タムラコータロー【たむらこーたろー】アニメ監督・演出家。これまで手掛けた主な作品は『おおかみこどもの雨と雪』助監督、『ノラガミ』シリーズ監督、『未来色の風景』監督ほか