さんぺい聖監督がアニメ『女子高生の無駄づかい』で描く“バカ”の魅力「理解しようとすると“バカ”というキャラクターではなくなってしまう」【インタビュー】 | 超!アニメディア

さんぺい聖監督がアニメ『女子高生の無駄づかい』で描く“バカ”の魅力「理解しようとすると“バカ”というキャラクターではなくなってしまう」【インタビュー】

7月5日より放送開始のTVアニメ『女子高生の無駄づかい』から、さんぺい聖監督のインタビューが「アニメディア7月号」に掲載中。本作は都立さいのたま女子高等学校へ入学した主人公の“バカ”こと田中望と、ヲタこと菊池茜、ロボこ …

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 7月5日より放送開始のTVアニメ『女子高生の無駄づかい』から、さんぺい聖監督のインタビューが「アニメディア7月号」に掲載中。本作は都立さいのたま女子高等学校へ入学した主人公の“バカ”こと田中望と、ヲタこと菊池茜、ロボこと鷺宮しおりを中心に、個性的な女子高生たちの日常を描く学園コメディ。超!アニメディアでは、本誌に掲載しきれなかった部分を含めたロング版をご紹介する。


――原作コミックの魅力は?

 ギャグの方向性が、ドカンと大きく笑いを取るのではなく、じわじわくる笑いであるところが個人的に好きです。シュール過ぎないとこもいいですね。高校生活のあるあるネタをうまく笑いに落とし込むところも面白いですね。また、最初はギャグだけで展開しますが、巻が進んだ後半では、笑いと「いい話」をうまく混ぜこまれています。友情話を「いい話」のまま終わらせず、笑いにつなげていますね。

――キャラクターの魅力はいかがですか?

 全員個性的で、それぞれキャラが被らない感じ。しかも、全員がそれぞれギャグメーカーであることがすごいと思います。バカ、ヲタ、ロボのメイン3人以外のキャラクターの方が、それぞれ特化したジャンルを担当しているので、味が濃い感じがします。

――原作の魅力を映像化するうえでポイントは?

 原作コミックはショートエピソードを連ねていますが、アニメはストーリーの軸として日常の時間の流れとドラマ性を加味して、高校の1年間を過ごすキャラクターの軽い成長を描きます。ギャグだけでなく、原作の後半でも描かれている「いい話」も混ぜ込みつつ、四季も入れて時間を進めていけるようにストーリーを構成してみました。主人公のバカ、ロボ、ヲタが舞台となる高校へ入学してきますが、3人はクラスのなかでのカーストが高い方ではありません。とくにバカは相手にしづらい子だと思います。でも、そういう子たちも高校生活を楽しく送っていて、そこから広がるクラスの輪をギャグ+いい話として描けたらいいですね。


――第1話の注目ポイントは?

 原作は時間軸に関係なくエピソードが連なっていますが、アニメはバカたちが入学するところから物語が始まります。まだ全員と仲がいいわけではない段階なので、クラスメイトとの深度などの点で、原作のエピソードによっては使えなかったり、使う場合でも、時間軸に合わせて少し変えたりしています。1話は、3人の関係性を掘り下げるわけではなく、普段の3人はこんな感じということを前面に押し出して描いています。バカがひたすら長話をするのですが、仲がいい人達のとりとめもなくダラダラと喋っている様子をうまく表現できていたらいいですね。バカはひたすら喋り、ヲタは心のなかでは突っ込むけれど言葉には出さず、それを無表情で見ているロボなど、ほどよい距離感を持つ3人の関係性や距離感が伝われば成功かな。


――本作の演出で心がけていることは?

 シナリオでは、ギャグに関しては、なるべく原作以外の要素は入れないようにしようと思っています。笑いの方向性は難しいので、原作者のテイストを知ってるつもりで書いても、どうしてもちょっと違う感じになってしまいます。そこで、ギャグ以外の日常パートの要素を増やしました。「バカたちが普段どういう生活をしているのか」など、原作ではなかなか見えない部分を補強しています。

――バカの演出に関しては?

 バカは一貫して「努力しないで男子にモテたい」という目的があるので、それは外さないようにしています。ずっと「彼氏が欲しい」と言い続けるけど、努力はしない(笑)。ただ、バカは気を遣わないで人と接していくので、シナリオの段階から、嫌な感じのキャラクターに見えないように心がけています。たとえばロリをいじるときはイジメに見えないように声のかけ方なども注意しました。空気を読めないだけのキャラクターになってしまうと、主人公としてはつらいですから。基本的には、バカを中心として友情が広がっていく感じになっています。普通ならば、クラスのカースト上位にいるキャラクターは、ヲタたちとはからまない気がします。でも、カーストの壁を飛び越えていくバカのおかげで、つながらない輪もつながっていくでしょう。バカを描くうえで難しいのは、全方位で「バカ」でいなくてはいけないところです。主人公ポジションとしては、描き方が難しいですね。まんべんなくバカでなくてはいけないし、普通に会話をしてもいけません(笑)。本作のなかでは、バカが一番演出するうえで難しいキャラクターだと思います。バカならどう考えるかという考え方が原作者以外に思いつかないので、理解し難い。でも、彼女を理解しようとすると、バカというキャラクターではなくなってしまう気がします。

――作画の部分でスタッフにオーダーしたことは?

 この作品は、絵のインパクトで笑わせているのではないと思っています。ギャグのネタと日常芝居の積み重ねで笑わせる。だから、極端にキャラクターの顔を崩すなど、作画的なギャグで笑わせないようにしています。だから「絵をギャグに振り過ぎないでね」と、常に言っています。あくまで「日常もの」として、そして「かわいい女子高生」として描いて欲しいと、作画スタッフやキャラクターデザイナーにも一番最初の段階で伝えました。原作に登場するギャグ顔は使いますが、アニメ用の新たなギャグ顔は作りませんでした。

――日常芝居をよりしっかり描く必要がありそうですね。

 リアリティーを感じられるほど笑いにつながる気がします。原作では舞台となる「都立さいのたま高校」がある町には特定のモデルはないのですが、アニメでは東京の「ある町」をイメージしています。実際にいくつか候補地を周り、埼玉県と東京都の境目にあって、少しノスタルジックな場所を見つけました。駅や町並み、風景がイメージにぴったりでした。知っている人が背景美術を見れば、どこなのかは分かると思います。

――背景美術でもリアリティーを感じられるのですね。

 空想の町をひとつ作るのはけっこうな労力だし、空想だとスタッフ全員にリアリティーの基準を合わせてもらうのは難しい部分があります。全員に共通認識を持ってもらうには、実在する町をイメージするのは有用です。そこに配置することで、キャラクターに生活感が出てくる感じがします。

――音楽に関してはどんなオーダーをされましたか?

 音楽も「ギャグに振りすぎないようにしたい」と、一番最初に音響監督と相談しました。完成した音楽はコミカルなものですが、それが映像に加わると笑いどころが強調されて、笑いがより盛り上がる感じになりました。うれしい誤算でしたね。

――本作ならではの試みなどはありますか?

 本作は、映像制作の後で声優陣の声を録音するアフレコではなく、映像より先に録音した声優陣の声の演技に合わせて映像を制作する「プレスコ」のような方式で制作しています。通常のアフレコ方式だと、セリフを決められた時間内に当てはめてほしいとか、ある程度のブレス(息継ぎ)も僕たち演出側がコントロールします。でも今回は、セリフを話す時間やブレスはすべて声優さんに委ね、あとの作業で編集し直す形にしました。これも、会話のテンポなどを日常的なリアリティーを大切にしたかったから。また、なるべく間をつめ、突っ込みのテンポを活かすことでうまく笑いにつながるように気を遣っています。

 アニメの会話だと、交互にターンしながら話しがちです。でも、リアルな会話では、相手が言葉を言い終わらないうちに話しています。そういうリアルな感じがほしかったんです。そうはいっても、声優さんは相手が言い終わるのを待って話されますので、編集でセリフの間をつめて、会話のテンポを早くしています。そのあとで作業する作画スタッフには、声優さんのテンションに寄せたキャラクターの演技になるように、表情の強さなどを構成してもらっています。録音はすでに全話終わっています。

――その方式を選んだ理由もリアリティーの追求なのですね?

 キャラクターの映像の演技の都合でセリフの切りどころを作るよりは、そのときのキャラクターの感情は声優さんに委ねて、間を取ってもらうことにしてもらうかなと思ったのです。こちらがオーダーしている時間よりも演技が短くても長くても、そのまま使うことにしています。キャラクターの性格を優先し、録音の参考用に用意した仮の映像を無視して喋ってくださいということもありました。あとでこちらで合わせます、みたいな。

――委ねられた声優さんは大変だったもでは?

 メインの3人の声優さんはベテランなので、こういう役を演じられるのが楽しかったようです。

――声優陣へ演技のオーダーもされたのですか?

 キャラの紹介はしましたが、取り立ててオーダーはしませんでしたね。びっくりするほどそれぞれのキャラになりきった演技は「なるほど」と納得できるもので、僕の想像を超えた感じです。

――メインの3人のキャラクターを紹介してください。まず、バカから。

 バカは、原作では主人公のポジションで、誰とでも気軽に接するのですが、誰とも噛み合っていない。でも、みんなから好かれる存在になってしまう。憎めないキャラです。通常の思考が他人と外れているので、面白いやつという感じなのだろうなと思います。行きすぎていて、天才的に思考が読めない感じですね。でも、だからこそ、彼女は、ギャグ以外の通常の会話が難しいんです。普通の会話でバカが返す言葉ひとつに引っかかり、シナリオライターに何度も修正してもらったものです。何度も修正してもらったので、昨年秋に始まった録音では、その場で追加してもらうアドリブのセリフも、いかにもバカが口にするようなものになっていました。

――バカは、ギャグだけでなく、普通の会話も楽しみなのですね。

 バカは、誰かがなにかをやっている裏で、けっこうひとりでずっと喋っています。そうした「ガヤ」と呼ばれるアドリブのセリフは、普通なら声優さんにお任せするものです。でも今作では、なるべく笑えるように、ガヤのセリフもすべてシナリオライターに考えてもらいました。

――では、ロボは?

 ロボは、独り言のようにボソボソと話す、典型的なボソボソ系。メインの3人のなかでは、彼女もギャグを担当するキャラクターではあります。この子のギャグは「自分がモテると思っているバカがすごい」など、辛辣すぎることを言って笑いを取るもの。彼女に関しても、行きすぎないようにしている感じ。辛辣なギャグが強すぎて嫌なやつと思われるとよくないので。あくまで「この3人の友情のなかでは成立する」ことをうまく表現してあげられたらいいですね。また、ミステリアスなキャラであることも、この子の魅力です。12話をとおして掘り下げていくと、彼女にも、泣けるいい話があります。

――3人目のヲタは?

 今回のアニメ制作するに当たって自分が最初に提案したのは、ヲタを主人公にして、彼女の視点で描きたいということ。日常ものとして観るとき、バカは存在そのものが日常ではないので、ヲタの日常生活として高校生活を1年間描くようにしたかったのです。ヲタは一番感情移入しやすいキャラクターだし、視聴者のみなさんも共感しやすいキャラクターだと思います。また、この子は唯一のツッコミキャラなので、場を回すポジションになりますから。そうした理由で、アニメは、ヲタ視点の日常もので構成してみました。また、ヲタは感情の起伏があって、かわいいし、わかりやすい。視聴者の心の声を代弁してくれるのがヲタです。

――3人以外で、オススメのキャラクターはいますか?

 原作のキャラクター人気で上位にいるマジョは、キャラクターとしては面白いし、ある意味一番バカたちに近づくキャラでもあります。泣けるし、ギャグも面白いし、かわいいし、強烈なキャラクターです。ただ、登場するのは一番遅くなります。あとは、ひとりでギャグが成立してしまうヤマイ。誰の手も借りずに面白い。この子も、ギャグではバカと双璧をなすポジションなので、バカとからむとさらにヤバイことになります。

――アニメディア読者にメッセージをお願いします。

 高校生くらいの年ごろだと、女子も男子も、みんな友達との会話が一番楽しくて、そこにもっとも時間を費やしていると思います。そのときの友達は、その瞬間だけかもしれない。でも「強制的に流れていってしまう高校生という時間は、どんなポジションにいても楽しいんだよ」ということが、みなさんに伝わるといいですね。登場するキャラクターは、それぞれが視聴者のカケラを持っていて、みんなが視聴者それぞれの代役になっているかもしれません。みんなある方向にとがっていて天才的。僕は凡人なので、彼らのなかでは控えめなヲタに共感するかな。

取材・文/草刈勤

TVアニメ『女子高生の無駄づかい』放送情報
AT-X:7月5日 毎週金曜21:30~
TOKYO MX:7月5日 毎週金曜22:30~
テレビ愛知:7月5日 毎週金曜27:05~
KBS京都:7月5日 毎週金曜 24:00~
サンテレビ:7月5日 毎週金曜 24:00~
BS11:7月5日 毎週金曜 23:00~

STAFF
原作:ビーノ(KADOKAWA「コミックNewtype」連載)
総監督:高橋丈夫
監督:さんぺい聖
シリーズ構成:横谷昌宏
キャラクターデザイン・総作画監督:安田祥子
サブキャラクターデザイン:古川英樹、番由紀子、満若たかよ
監督補佐:橘紗央莉
美術監督:斉藤隆博
美術設定:中村嘉博
色彩設計:鈴木咲絵
撮影監督:山本弥芳
編集:丹 彩子
音響監督:明田川 仁
音楽:菊谷知樹
音楽制作:KADOKAWA
アニメーション制作:パッショーネ

キャスト
田中 望(バカ):赤﨑千夏
菊池 茜(ヲタ):戸松 遥
鷺宮しおり(ロボ):豊崎愛生
百井咲久(ロリ):長縄まりあ
山本美波(ヤマイ):富田美憂
一 奏(マジメ):高橋李依
染谷リリィ(リリィ):佐藤聡美
久条翡翠(マジョ):M・A・O
佐渡正敬(ワセダ):興津和幸

『女子高生の無駄づかい』公式サイト
jyoshimuda.com

『女子高生の無駄づかい』公式Twitter 
@jyoshimuda

©ビーノ/KADOKAWA/女子高生の無駄づかい製作委員会

《超!アニメディア編集部》
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