アニメーションの歴史に輝く不朽の名作『宇宙戦艦ヤマト』をリメイクし、2012年から2014年に渡り、劇場上映から全国ネットでのTV放送まで展開、大きな支持を得た『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下、『2199』)。2017年2月からはヤマト待望の完全新作シリーズ『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下、『2202』)が全七章で順次上映されており、最終章となる第七章「新星篇」が2019年3月1日(金)より上映となる。
今回は「宇宙戦艦ヤマト」、そして第六章から本格的に登場した「波動実験艦 銀河」などのデザインを担当する玉盛順一朗にインタビュー。デザインのこだわり、そして『ヤマト』という作品への想いなどをうかがった。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』キービジュアル
ーー玉盛さんは『宇宙戦艦ヤマト2199』からメカニックデザインとしてプロジェクトに参加しています。最初にプロジェクトに関わると聞いたときはどのようなお気持ちでしたか?
まず出渕裕総監督からお声がけいただきまして。もう10年ほど前になります。出渕総監督とは同人誌などでお付き合いがありましたし、『ヤマト』の同人誌を作っていた自分としては、「待っていました」という気持ちでした。
ーー『ヤマト』に関する同人誌を描かれていたということですが、プロジェクトに関わる前は『ヤマト』に対してどのような印象をお持ちでしたか?
子供の頃は『ゲッターロボ』『マジンガーZ』『コンバトラ―V』や『ウルトラマン』なんかも好きでよく観ていましたが、戦艦が主役のアニメはなかったんですよね。だから『宇宙戦艦ヤマト』は新鮮でした。しかも戦いがメインではなく、むしろなるべく戦闘を避けて生き残るために戦う。イスカンダルを目指して宇宙を旅するというのが幼心に響いていました。
ーー名作ロボットアニメの名前が出てきましたが、元々ロボットは好き?
好きでした。小さい頃はスケッチブックに車の絵をよく描いていましたね。巨大ロボット以外にもいわゆるリアルロボットの『機動戦士ガンダム』も観ていました。あとは『伝説巨神イデオン』。あれが大切なんですよ。イデオンはおもちゃとしてもカッコいいデザインなんですけども、伝説の巨人という設定であり、しかも人との関わりでイデオンが力を発現する。『イデオン』は人が主役なんですよ。そのなかでもメカがカッコよく見える。『イデオン』はメカデザインって、メカが単独で存在して成立するものではないんだなと思わせてくれる作品でした。『ガンダム』もそうですよね。最終話では主人公のアムロとライバルのシャアがモビルスーツを降りて剣で戦うじゃないですか。最初はああいう構想ではなかったようですが、結局はそういう「人」と「人」というところにいきつくのかなと思っています。
ーー『ヤマト』も同じような側面があると思います。
そうですね。僕はメカを人が使うというところに本質的な魅力を感じていますので、デザインするうえでもその点は意識しています。例えば今回の「ヤマト」も自動で動くような戦艦だったら今のようなデザインにはなっていなかったでしょう。一方、乗艦人員をなるべく減らしてオートメーション化されている地球艦隊の「アンドロメダ」という戦艦が『2202』では登場します。その違いはしっかりと考えてデザインしました。
ーー例えばどのような点に違いがありますか?
「ヤマト」の側面には人が乗り降りできるはしごがありますが、「アンドロメダ」には見当たりません。これは格納されているという解釈の元デザインしました。これにより人のぬくもりがないような印象になっていると思います。戦艦はロボットとは違いポーズが取れないので、砲身などで工夫して生きているようにみせます。艦橋がガラスで透明なのもそこに人がいるっていうのが分かりやすいからなんですよね。
ーーなるほど。
ただ、本作において僕は基本的にこれまでの「ヤマト」のデザインを意識しています。それは、なるべく元のデザインの素晴らしさが伝えたいと思っていたから。リファインなんですよね。『2202』において「アンドロメダ」は設定が過去作とは少し異なります。だから、デザインに関しては全く同じじゃないかという人もいればかなり変わったという印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。一方、過去作との明確な違いとしては、3DCGで表現できるように形を整理するという点が挙げられます。
『ヤマト』は元々1974年のコンテンツ。この2018年までに『ガンダム』『マクロス』など、さまざまなロボットアニメを経てきていますので、時代にふさわしいものが何かという視点で新たに捉えなおす必要もあると思いました。それに、我々が成長してオジサンになっているのと同様にアニメの技術も進化しています。そのひとつがCGの発展。そういう過去にはなかった制作方法も意識し、今までにない表現も加えることを目指しました。
ーー具体的にはどのような点を?
当時は艦体表面の緩やかなカーブを『ヤマト』スタッフの皆さんが艦体分割線などの丸みで表現されていました。しかもそれをいちいち動かしていた。当時のチャレンジ精神はとてつもないもので、非常に感動した覚えがあります。今やるとすればきっと同じことはできない。それなら、技術の発展によって手に入れたCGを活かせるデザインにできないかと思ったんです。例えば光の反射や影が自動的に入れられるCGの技術を用いて、遠くに見えるときは自動的に省略されて、近づけば細かいディテールが見えるといったデザインになるよう意識しています。ただし、細かいディテールというのも過去作で表現されている範囲内で適宜にしています。それは全部を押し付けにはしたくなかったから。
ーー押しつけにしたくない?
細かいねじ一本一本までデザインするとお腹いっぱいになっちゃいませんか? デザインのカッコよさで重要なのは主観。だから省略できるところはして、必要な部分だけを見せるということにも気を使いました。
「宇宙戦艦ヤマト」メカ設定
ーーなるほど。デザインについてもう少し深いところまでつっこむと『2199』と『2202』で「ヤマト」の形状が少し変わりました。これはどのような意向からでしょうか。
「ヤマト」はこれまでの作品でも絵が一定しておらず、色々な形状があります。第一作のTVシリーズと劇場版『さらば』(1978年公開映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』)では描き方が変わっていますし、『永遠に』(1980年公開映画『ヤマトよ永遠に』)や『完結編』(1983年公開映画『宇宙戦艦ヤマト 完結編』)ではより整理された感じのデザインとして描かれています。しかも、アニメだけじゃなくプラモデルでも「ヤマト」はさまざまなものが展開されてきました。だから、ファンにとって理想の「ヤマト」の形って異なるんですよね。そうなると「これ!」というひとつの形にはできません。『2199』と『2202』で「ヤマト」のデザインを変えたのもそれが理由です。ファンの気持ちを考えたら最低でも2つは必要。そう思ったんです。
ーー『2199』と『2202』の「ヤマト」デザインでそれぞれこだわった点は?
『2199』ではいわゆる第一作目のTVシリーズの「ヤマト」を意識して、波動砲まわりなど人の手で作られたような曲面になっており、尖がっていません。『2202』ではその風味を少しはずして波動砲の上のあたり、いわゆるフェアリーダーの穴のまわりを少し垂直に曲げています。それで『さらば』以降の力強さを表現しました。
「宇宙戦艦ヤマト」新旧対照・解説図
ーーこれまで「ヤマト」を見続けてきた玉盛さんの強い愛やこだわりを感じます。一方「ヤマト」や「アンドロメダ」など過去作にも登場したメカ以外に、『2202』では新たな艦「銀河」も登場しましたね。
「銀河」については「ヤマト」初めての姉妹艦ということで賛否両論になるだろうとは思っていました。ただ、90年代に制作された『YAMATO2520』に参加され、本作にも関わっていらっしゃる小林誠さんが出されたアイデアのなかに「銀河」に相当するものが元々あって。それを先代のスタッフの方々が気に入ったというエピソードもありますので、「ヤマト」の姉妹艦としてふさわしい艦ではないかと個人的には思っています。デザインをまとめたのは小林誠さんですが、私も形を整理する段階で関わることができ、嬉しく思っております。
ーー「銀河」はどのようなコンセプトでデザインされましたか?
「銀河」は“戦艦”ではなく“実験艦”であるという点、またヤマトの量産型でもないという点を意識しています。そのため、「ヤマト」と並べたときにどの程度一緒なのか、またどう異なるのかが重要となっています。最終的に窓を増やすという調整が行われたのですが、これは戦闘艦じゃないというアピールです。また、過去に実在した多くの戦艦は大正時代に設計されたものがベースになっています。その延長線上で「銀河」もクラシカルなデザインになるようチャレンジしました。イメージとしては産業革命後19世紀から20世紀初頭のイギリスやフランスのあたり。大正時代より少し前ではありますが、時代をさかのぼった感じのデザインテイストを組み込むよう意識しています。
「銀河」メカ設定
ーーここまでデザインのお話を色々とうかがってきましたが、3Dで「ヤマト」をリファインするのは大変でしたか?
うーん……私の立場としては大変だったというよりも、3DCGを手掛けられる方々がいかに苦労しない形のデザインに整理してお渡しできるかを考えていただけなんです。だから簡単な3DCGモデルも作ってお渡ししていました。それでよりよいものが作れるなら何も言うことはありませんよ。
『宇宙戦艦ヤマト2202』第七章「新星篇」が2019年3月1日(金)より上映。物語はどのような結末を迎えるのか。劇場でぜひ見届けていただきたい。
その他、設定画はこちら。画像をクリックすると拡大します
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』公式ホームページ
yamato2202.net
公式twitter
@new_yamato_2199
©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会