「ティーンではなく大人を主人公にしたほうがドラマがあるという考え方にハッとした」 -『イングレス』と「+Ultra」についてフジテレビの森プロデューサーに直撃【インタビュー】 | 超!アニメディア

「ティーンではなく大人を主人公にしたほうがドラマがあるという考え方にハッとした」 -『イングレス』と「+Ultra」についてフジテレビの森プロデューサーに直撃【インタビュー】

「海外にアニメカルチャーを広げたい」というコンセプトのもと、高品質で世界基準のアニメ作品を全世界に向けて発信していくフジテレビの新アニメ枠「+Ultra」(プラスウルトラ)。その第1弾となるTVアニメ『イングレス』(正 …

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 「海外にアニメカルチャーを広げたい」というコンセプトのもと、高品質で世界基準のアニメ作品を全世界に向けて発信していくフジテレビの新アニメ枠「+Ultra」(プラスウルトラ)。その第1弾となるTVアニメ『イングレス』(正式名称:『INGRESS THE ANIMATION』)が、2018年10月17日(水)24:55(毎週水曜日24:55)より放映される。

 超!アニメディアでは新たな挑戦となる本作を深堀すべく、複数回にわたってインタビューを敢行。第2回はフジテレビの森彬俊プロデューサーに本作の魅力のほか、「+Ultra」枠にかける想いについてうかがった。

■『イングレス』INTRODUCTION
2013年、スイスの原子核研究機構『CERN』──。ヒッグス粒子発見の影で、ある秘密プロジェクトが発足した。そのプロジェクトの名前は『ナイアンティック計画』。その目的は人間の精神に干渉する未知の物質を研究することにあった。 『エキゾチック・マター(XM)』と呼ばれる事になるその物質は、古来より人々の精神・能力に感応し、人類の歴史にさえ大きな影響を与えてきたのだった。 世界各国の機関が、秘密裏にその研究に取り組んだ。 XM は、人類の希望または脅威とされ、 大国や巨大企業による争奪戦が巻き起こってゆく。 XM の力を受け入れ、人類の進化に利用しようとする『エンライテンド』。 XMを脅威と見なし、コントロールしようとする『レジスタンス』。世界はふたつの陣営に別れ、今も争い続けている。この世界で起きている争いの背後には、XMの存在があったのだ。そして、2018年──。東京、そして世界を舞台に、XMをめぐる新たな戦いが幕をあける。アニメーション、オンライン位置情報ゲーム、そして現実がリンクする、かつて体験したことのない新たな「拡張現実エンターテインメント」が、始まる。

■ストーリー
制御できないその力を隠しながら警察の特殊捜査官として働く彼は、未知の物質「XM」の研究所爆発事故現場で不可解な記憶を見る。事故の唯一の生存者、サラの指環に残されていた記憶。それは人が赤い光に飲み込まれ、消失する光景だった。巨大な陰謀に巻き込まれていくマコト。人間の精神に影響する物質「XM」を巡る戦いが、始まる――。

イングレス

――まずは『イングレス』における森プロデューサーの役割を教えてください。

そもそもはフジテレビが位置情報アプリや位置情報ゲームを製作されているナイアンティックさんが作られた世界にプレイヤーがいるゲーム『Ingress』のアニメ化という企画を進めさせていただいていました。その時はまだ放送枠や時期も決まっていませんでした。一方で『Ingress』のアニメ化とは別に、フジテレビのアニメ放送枠「ノイタミナ」に次ぐアニメ枠にチャレンジしてもいいのでは、という話があがっていまして。「ノイタミナ」は14年間やってきてある程度世間的にも認知していただき、ブランディングもできたと自負をしていたので、次の一歩に進むため新たな枠を設けるようという話になったんです。そして、「+Ultra」という枠を立ち上げることが決まりました。この枠のコンセプトは世界に訴求できるハイクオリティな作品を提供するというもの。そこでラインナップのひとつとして白羽の矢が立ったのが、『イングレス』です。

――枠が立ち上がってから『イングレス』のアニメ化企画を進行したのではなく、それぞれ別で話を進めていたんですね。

そうです。それからは本格的にTVアニメ『イングレス』のプロデューサーを担うようになりました。この作品を制作するにあたり、クオリティを求めるなら昨今素晴らしいCGアニメーションを作っているクラフターさんがいいのではと思ったんですよ。ナイアンティックさんとクラフターさんは良好な関係でしたし、クラフターさんにお任せすればハイクオリティかつ新たなものが生まれるという期待もありました。

イングレス

――道筋を立てるのが森プロデューサーの役割だったんですね。では、アニメ化企画が進行していくなかで、森プロデューサーのほうで作品に関して何か意見などは出されましたか?

シナリオ打ち合わせには僕も参加して、櫻木監督や脚本家さん、クラフターの石井プロデューサー、そしてナイアンティックの方々と議論を交わしました。シナリオ打ち合わせで重要なのはみんながフラットな意見が言えることだと思うので、僕ももちろん意見を出して、皆さんとディスカッションしました。ただ、意見を出し合いはしましたが、ゴールは同じものが見えていたもので、とても建設的な話ができたと思います。

――熱い議論を交わされたんですね……!

いやー、熱かったですね(笑)。今回特に面白かったのはハリウッド作品なども手がけているナイアンティックさんと議論できたことです。僕は「ノイタミナ」を長くやってきたので、無意識に日本のアニメのシナリオ文法になっちゃうところがあるのですが、ナイアンティックさんは、全く異なる知見からアイデアを出してくださいました。それによって物語の幅も広がったと思いますし、個人的にも非常に勉強になりました。

――ナイアンティックさんの意見が刺激になった?

特に文化性の違いについては「そういう視点があるのか」と驚きを隠せませんでした。例えばいわゆる深夜アニメのロジックだと思春期で成長の過渡期にある少年・少女が事件に巻き込まれて壁を乗り越えていくという構造がポピュラーといえる展開だと思うのですが、欧米の考え方だとその展開はあまりないんです。ティーンは成長の過渡期だから成長していくのは当たり前、むしろドラマになるのは成熟した大人が事件に巻き込まれてそこで固まってしまった価値観などを解きほぐしてワンステップ上がるほうだ、という考え方なんですよ。ハリウッド映画や海外ドラマなんか思い返してみても大人の男性・女性が主人公のことが多いですよね。これにはハッとしました。今作もその方向性で進めようとなり、『イングレス』は既に仕事をしていて自立している男性・女性が主人公となりました。

――このお話は監督や石井プロデューサーもおっしゃられていました。

そうなんですね! 同じ考え方でよかった(笑)。文化性の違いについては本当に勉強になりましたね。

――今回学んだ欧米の考え方などは今後の作品にも反映できる?

できますね。アニメの視聴者の方々の目はいま非常に肥えていらっしゃいます。これは20年、30年かけて文化が成熟していった結果だと私は感じているんですよ。昔だとひとつの作品が流行ると同じようなアニメばかりが放映されるようになったのですが、いまは非常に多様化しています。それくらい視聴者の方々の好みがさまざまになってきたと思います。そういう意味では今はどの作品が多くの人から注目を集めて人気が出る、いわゆる覇権アニメと呼ばれるものになるのか予想ができなくなってきているんじゃないかな。それでも一つ言えるのは、面白ければ受け入れられるということ。だからこそ、『イングレス』も既存のフォーマットに収まらない、ハリウッド的な考え方を導入しても受け入れられると思っています。


――色々と議論を交わされてアニメ制作を進められたとのことですが、そのうえで特に苦戦したと感じたことは?

「+Ultra」は「海外にアニメカルチャーを広げたい」というコンセプトがある枠で、企画会議でもこの点については相当話し合いましたが、日本の視聴者の方々に面白いと思ってもらうのも忘れちゃいけないと僕は思っていました。だから、その塩梅が難しかったですね。日本と海外でトレンドが違う部分もあったので、そこは議論を重ねて解決していきました。

――今のお話で日本にも海外にも受け入れられる作品を作る、それがこの枠の目的ということがよく分かりました。

ただ、受け入れられる作品を作ったとしても届かなければ意味がない。そういう点ではNetflixさんとパートナーシップを結べたのは大きいと思います。全世界同時に配信されていてカバー領域も広いNetflixさんで配信すれば地上波での放送とタイムラグがない形で届けられます。非常にこの枠のコンセプトと親和性が高いので、ぜひご一緒したいとご相談に行ったら前向きに検討いただけて、今回実現しました。

――コンセプトとしては確かに親和性が高いかと思います。一方でNetflixさんでは本作が一気に全話配信されますよね。それって正直フジテレビさん的には大丈夫なのでしょうか?

色々な見方があると思います。それこそTVとネットでの配信をどうしていくのか、という議論はこれまでも多いにされてきたことだと思うんですよ。ただ今回の作品を一挙配信するのがデメリットではないと私どもは考えています。というのもNetflixさんで最後まで作品を観た方が「『イングレス』は面白い」と言っていただけることでより多くの方々に拡散されると思っているので。それによって、Netflixさんをご利用されていない方が地上波のほうで観ようと思われる可能性もある。これって決して悪くないことだと思います。今後TVはネット配信とどのように共存していくのか、本作ではそこもチャレンジしたいと思い、このような形態にしました。

――ライバルではなく共存関係なんですね。

ライバルなんておこがましいですよ(笑)。当然、我々はTV局の人間なのでTVで作品を観ていただきたいという思いはあります。でもそれは視聴者の方々には関係ありません。ネットで観たいという方にむりやりTVで観てくださいというのはとてもナンセンスだと思うんですよ。それよりも作品を観てもらうウィンドウを増やしてコンテンツ自体を多くの人に知っていただくほうが僕としては優先度が高いと思っています。もちろんTVでも観ていただきたいです。でもそれが一番じゃない。我々が長い年月をかけて作ってきたものを観てもらうのが一番だと思っています。

――本日のお話をうかがっていると『イングレス』という作品に相当な自信を持っていらっしゃると感じます。

自信はあります。この枠のコンセプトであるハイクオリティというのは絵のリッチさだけでなくシナリオが面白いということも含まれていて、相当時間をかけて作ってきました。それは制作期間を無駄に長くするということではなく、ちゃんと練りこめて面白いものを作るという期間を設けてクオリティを高めることに注力したということ。この枠のものって面白いよね、という作品に出来上がっているという自信はあります。

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――そんな自信作の『イングレス』。既にほぼ全話完パケ状態とのことですが、ご覧になったときの感想は?

櫻木監督をはじめとしたクラフターの皆さんが最初に目指したゴールをぶれさせずにとても素晴らしいクリエイションをしていて、プロデューサーとしてはとても感謝しております。プロデューサーの仕事って絵を描くわけでもないし、音楽を作曲するわけでもない、座組やスキームを整えて、みんなにゴールの共通意識を持ってもらうことだと思うんですよ。共通意識があれば作品はぶれない。完成品を観て改めて共通意識が本作では持てていたなと感じました。

――作品でこだわりを感じた部分は?

キャラクターですね。特にヒロインのサラ。今までのCGアニメはキャラクター性が希薄になりがちだったような気がするんですよ。ただ、今回のクラフターさんのCGアニメはそこを突破していて、キャラクターが非常に表情豊かだし、髪の毛もよく動くんです。だからキャラクターを可愛いと思えたり、感情面でコミットできたりする。それは『イングレス』のエポックメイキングだと思っています。このキャラクターが豊かというのは特に監督がこだわっていたと思います。

――サラは演じられる上田麗奈さんの芝居もキャラクターに非常に寄り添っていたと感じました。

今回のキャストの皆さんはキャラクターと合う人がセレクトされています。なので、アニメ中心の方もいれば、吹き替えメインに活動されている方もキャスティングされている。上田さんはサラにピッタリだったと思います。

イングレス

――森プロデューサーもオーディションやキャスティング会議には参加された?

参加しましたが、こちらはシナリオ会議とは違いほぼ満場一致ですんなり決まりましたね。会議の方向性としては人気声優さんで固めましょうというプランニングではなく、芝居がちゃんと私たちが作った作品に合致する方を選ぶというものだったので、みんなの意識にぶれがありませんでした。ただ実力のある方はフラットに聞いても結局「すごい」となるんですけどね。

――ずっと人気があるということはそれだけ認められているということでもありますよね。

そうですね。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に森プロデューサーが「+Ultra」に今後期待することを教えてください。

期待というよりも僕たちがやらないといけないのは、このブランドを視聴者の皆様に認識してもらうことだと思います。もちろん、「+Ultra」については我々のほうから「こういう枠があります」というアピールもさせていただきますが、一番はやっぱり中身で語ることです。作品をちゃんと皆様に届けることで「+Ultraって面白いよね」って思ってもらえるようにしたいですし、それは僕らが頑張らないといけないことだと思っています。

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〈TVアニメ『 INGRESS THE ANIMATION 情報〉
2018年10月より、フジテレビ「+Ultra」にて放送開始
NETFLIX にて全世界配信
ほか各局でも放送 関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/北海道文化放送/BS フジ

■スタッフ
原作 Niantic, Inc.
監督 櫻木優平
脚本 月島総記 /月島トラ
音楽 カワイヒデヒロ
キャラクター原案 本田雄
副監督 入川慶也
CGディレクター 古川厚
美術監督 加藤浩(ととにゃん)/坂上裕文
美術監督補佐 新井帆海
モデリングディレクター 宮岡将志
アニメーションディレクター 小林丸
撮影監督 野村達哉
アニメーション制作 クラフター

《超!アニメディア編集部》
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