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TVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』監督・山本裕介が語る作品の魅力「ギャグとエモさの両方を楽しめるアニメになれば成功だと思っています」【インタビュー】

2020/2/29


 現在放送中のTVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は、岡山県で活動する地下アイドル「ChamJam」の人気ランキング最下位であるメンバー・市井舞菜を熱狂的に応援するえりぴよのドルオタ活動を描いている。アニメディア3月号では、本作の監督を務める山本裕介にえりぴよと舞菜の魅力について聞いたインタビューが掲載。超!アニメディアでは、本誌に掲載できなかった分を含めた特別版を紹介する。


——本作の魅力はどんなところでしょう?

 僕が一番おもしろいと思っているのは、えりぴよをはじめとするオタクたちの、ひたむきさや純粋さです。そして、彼らが応援するアイドルたちもまた決して不純な気持ちでアイドルをやっていない。そんなキャラクターたちの一生懸命な姿を観て心を動かされてほしいです。作品の入り口は、えりぴよたちのバカバカしい行動が生み出すギャグなのですが、観ているうちにただのお笑いではなく、彼らのいじらしさに胸が熱くなる。そんなギャグとエモさ(情動的・感動的であること)の両方を楽しめるアニメになれば成功だと思っています。

——制作するうえでこだわっていることは?

 今回まず求められているのは、えりぴよも含めた「女の子のかわいらしさ」ですので、彼女らの顔を魅力的に描くことを主眼に置いています。だから僕の他の作品に比べるとバストショットが多くなっている筈です。

 もうひとつの演出テーマはギャグとエモをバランスよく共存させること。例えば劇伴の貼り方もコミカルな曲、泣かせのを使い分けて「ひとつの話のなかで笑ったり泣いたりの感情の振り幅を大きくする」という点にこだわっています。

 制作現場でも「エモい画面」イコール「心を動かすキラキラした要素を加味した画面」と解釈して「この絵はもっとエモく!」など「エモ」がスローガンになっていますね。美術の益田(健太)さんや撮影の浅村(徹)さんそれぞれが「エモフィルター」なる処理を開発したりして、打ち合わせで「エモ」というワードが飛び交っています(笑)。

 その最たるものが1話のえりぴよと舞菜が出会う桜の遊歩道のシーンで、原画さんや美術さん、撮影さんに細かくお願いをして、エモみを醸し出してもらいました。また3話のえりぴよと舞菜が電車で出くわすシーンも、演出の北村(将)君はじめとするスタッフが「エモくしなきゃ」とプレッシャーを感じつつ取り組んでくれました。あの電車を実は僕は密かに「エモ電」と呼んでいたんですが(笑)。そんな風にいくつものエモを重ね合わせて「推し武道」の映像は出来上がっているんです。毎話数、どこかしらにエモい見せ場を用意していますよ。


——山本監督が考える、えりぴよの魅力について教えてください。

 見た目はかなりの美人ですよね。でも不思議なことに、劇中では誰も彼女を美人だと思っている気配がありません。というより、くまさも基(えりぴよのオタク仲間)もえりぴよを全く女性として見ていない。玲奈をのぞけばChamJamの古株ファンの中では紅一点なのに、他のオタクの誰も眼中になく、気にかけているのは舞菜だけです。物語上の都合といえばそれまでなんですが、おもしろい設定だなあと思っています。

 アイドル事情に詳しくない僕は、そもそも女性のえりぴよが同性のアイドルに入れ込むこと自体が不思議でしたが、アイドル好きな多勢の女性スタッフから「女性も同性アイドルを本気で好きになって応援する」との証言を得てやっと納得できました。あまつさえ、えりぴよは推しメンの舞菜に対しては、女性らしからぬ若干不純な願望も抱いている(笑)。そこで、僕も彼女を単なる女性とは考えず、内面は男子中学生くらいのメンタルを想定して演出することにしました。とはいいつつ、そんな彼女にも汗の臭いや化粧崩れを気にする女性的な部分は残っています。そうした男っぽさも女っぽさもあわせ持つ、ユニセックスなところがえりぴよの魅力ではないかと思っています。

 そんな風に中身が男子で瞬発力にも富んでいるので、えりぴよの演出にはそれほど悩みませんでした。むしろ動かしやすいキャラクターだといっていいと思います。演ずる役者のファイルーズあいさんも、こちらが何かいう前にいろんなことを考えて演じてくださるので、とても得難いキャラクターが出来上がったと思います。

——えりぴよの癒しポイントはどんなところでしょう?

 えりぴよは、推しメンを応援するためならばバカバカしいくらいにがむしゃらです。バカもそこまで徹底していると「むしろ清々しい」と思えてくるのではないでしょうか。見ていると元気が出てくる。ある意味では癒やしを与えてくれるキャラクターではないかと思います。


——えりぴよは、ほかのキャラクターにはどんな癒やしを与えているのでしょう?

 舞菜に対しても信頼感や心の温もりなど、文字通りの「癒やし」を与えているでしょうね。短い時間しか会えない握手会は、舞菜も楽しみにしているでしょうし、むしろアイドルであるがゆえに自分からは会いに行けない舞菜のほうが、えりぴよと会っているひと時に、より癒されているかもしれません。

 対してくまさや基は、えりぴよとChamJamを応援する同志ではあるけれど、それ以外のところでは互いにまるで興味がなさそうです。彼らは、推しメンやそれを応援することにはそれぞれ「誰にも負けない」という自負がある。だから、利害が一致すれば団結する間柄ではあっても、癒やし癒やされる関係とは違うでしょうね。

——えりぴよが推している舞菜の魅力は?

 舞菜はChamJamの他のメンバーに比べると、これといった特徴がありません。アニメの設定上も「パッとしないアイドル」です。でも、不思議とヒロインっぽく見える「何か」を持っている。彼女がアイドルをやっている理由はアニメの中では描いていないのですが、もし舞菜が輝いて見えるとすれば、えりぴよが放つ強烈な光を受けてのことではないでしょうか。地味でマイナーな存在で満足していた舞菜が、「えりぴよのためにも、もっとちゃんとしたアイドルにならなくてはいけない」と決意する流れが、シリーズ後半のテーマのひとつになっています。

——えりぴよが舞菜を輝かせるとは、舞菜を奮い立たせるという意味なのですね。

 アイドルが成長するためには、ドルオタの存在が欠かせませんよね。オタクは、CDやチケットを購入して経済的にアイドルを支援するだけでなく、「応援に応えるために頑張らなくちゃ」とアイドルを奮起させる精神的な支えにもなっているんじゃないかと思うんです。その結果、アイドルが輝けば、オタクもさらに一生懸命応援する。この作品では、そうしたアイドルとオタクの理想的な共存関係を描いています。そういう意味では、アイドルもオタクも、それぞれの役割をまっとうすることで、互いに癒やし癒やされているのだと思います。静かに心をなぐさめる癒やしとは違いますが、アイドルとオタク双方が熱く燃焼するライブや直接触れ合える握手会は、互いに癒やされる時間じゃないかと思っています。


——舞菜の癒やしのポイントは?

 あまりガツガツしていないところ。アイドルとしてはどうかと思いますが、えりぴよはそんな舞菜の奥ゆかしさに癒されているのかもしれません。劇中ではこれまたなぜか(笑)、えりぴよ以外は誰も舞菜に興味を示さないので、今のところ舞菜はえりぴよしか癒やせていませんね。ただ、ChamJamはメンバー同士めちゃめちゃ仲がいいので、彼女たちも同じアイドルを志すもの同士、互いに癒やし癒やされ合っている関係ではないかと思います。

——舞菜に一番癒されているのはえりぴよに間違いないでしょうね。

 1話冒頭で出会った舞菜に魅了されたえりぴよは、オタクとなった現在では「舞菜がいるだけでいい、嫌われてそっぽを向かれてもいい。舞菜が生きているだけで幸せ」と言うほど、舞菜に癒やされていますね。

 それにしても1話の放送後の反響では、予想以上に「わかる」という声が多かったので驚きました。もっとえりぴよの言動を笑う人が多いと思っていたのですが、共感できるという反応がとても多くて。僕が思っていた以上に『推し武道』には、オタクの人たちに訴えかける何かがあるようです。

——それにしても、えりぴよと舞菜は不器用ですね。お互いに素直に気持ちを伝えればいいのにと、もどかしい思いになります。

 よくできたラブコメの王道パターンですよね。僕は最初からラブコメだと思って『推し武道』を演出していますから。ラブコメだから、えりぴよと舞菜の思いは延々とすれ違ったままなんです。

——監督自身が癒やしを感じるキャラクターは誰ですか?

 くまさは、観ていて「気持ちがいいな。男らしいな」と思ったりします。もしかしたら社会人としてはダメかもしれないけれど、本作においては理想のオタク。前野智昭さんの演技でさらに説得力が増して、セリフを聞いているだけでも心地いいです。

 女の子のキャラクターでは、基の妹の玲奈ちゃんがいいですね。彼女は、すごくドライで、えりぴよやくまさとはちょっと考え方が違う常識人なので、逆に安心できます。また、役者の市ノ瀬加那さんのお声にもChamJamのメンバーたちとは趣きの違う素敵さを感じます。

——ChamJamのコンサートシーンは「ライブアクション」で作られているんですね。

 プロのダンサーさんや本物のアイドルの女の子7人に振り付けを覚えてもらい、そのダンスを数台のカメラで撮影したものを編集して、まずミュージッククリップを作成し、その実写映像を下敷きにして作画しています。モーションキャプチャを使った3DCGにするという選択肢もあったのですが、制作会社のエイトビットに本物のアイドルのライブ関係の撮影や編集の経験のある生原さんという人材がいましたので、今回はCGでなく「実写を基にした作画でやろう!」と決めたんです。

 収録をお願いした7人の女の子は、ChamJamのメンバーに背格好や髪形を合わせるだけでなく、ダンスがうまい設定のキャラクター役は本当にダンスがうまい方にお願いしました。収録しているうちに僕たちスタッフも「本物のChamJamがいる」という感覚に陥り、休憩時間に車座になっておしゃべりしているその姿はChamJamそのもののように感じられました。なにしろ普段の生活で7人の美少女をいっぺんに目の当たりにできるなんて経験はそうそうないですからね(笑)。ダンスだけでなくそんな普段の佇まいの印象も、本作の描写に役立っていると思います。

——歌や踊りについて、監督から注文したことは?

 振り付けの先生には、原作で描かれているキャッチーなポーズは極力取り入れてほしいとお願いしました。またダンスシーンに定番のフォーメーションチェンジは、特別なシーン以外ではあえて無くしていただきました。前列、後列が重要な意味合いを持つエピソードがあるのですが、ダンスの中で頻繁に入れ替わるとその有り難みがなくなるからという理由なんです。

 ChamJamの自己紹介ソングは、元から原作に書かれていた歌詞を完全な形にするという条件でオーディションをしました。1話の劇中歌「ずっとChamJam」ですね。作詞・作曲のヒザシさんは、東北出身の作曲家で、多くのアイドルに楽曲を提供されている方です。

——最後に、読者へメッセージをお願いします。

 臆面もなく言ってしまいますが、『推し武道』のテーマは「愛」なので(笑)。人が人を好きでいるということは、こんなにも美しく、微笑ましいものであると。その様を見て笑うもよし、羨ましがるもよし、胸を打たれるのもよし。いろんな楽しみ方をしていただければと思っています。他にもさまざまな要素を含んだ作品なので、観る方によって全然違った受け取られ方をしてもらって構いません。音響監督の明田川(仁)さんにも「ここはギャグなのか泣かせなのか、どっちなの?」と良く突っ込まれましたが、胸を張って「両方です!」と答えていました(笑)。理想は「爆笑しながらも知らぬ間に滂沱の涙を流している自分に気づく」そんな作品です。ぜひ、ギャグとエモの両方をお楽しみください。

取材・文/草刈勤

PROFILE
山本裕介【やまもと・ゆうすけ】
手がけた主な作品は『ヤマノススメ』監督、『ナイツ&マジック』監督ほか。 

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』作品情報
毎週木曜日深夜1時28分よりTBSほかで放送中

アニメ公式サイト
http://oshibudo.com/

アニメ公式Twitter
@anime_oshibudo

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会



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