プロジェクト始動のきっかけから制作会社の倒産による制作中止の危機の裏側まで―― 劇場アニメ『虐殺器官』プロデューサー・山本幸治氏に直撃インタビュー | 超!アニメディア

プロジェクト始動のきっかけから制作会社の倒産による制作中止の危機の裏側まで―― 劇場アニメ『虐殺器官』プロデューサー・山本幸治氏に直撃インタビュー

34歳という若さでこの世を去った伊藤計劃氏の原作小説3作を劇場アニメ化していく一大プロジェクト『Project Itoh』。『屍者の帝国』、『ハーモニー』に続き、いよいよ伊藤氏のデビュー作である『虐殺器官』が2017年2月3日から劇場公開される。伊藤氏の魅力や本作のこ…

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●作品の魅力は「テーマ」「物語の仕掛け」「嘘」

――伊藤計劃氏の作品との出会いは何からだったのですか?

 私は『ハーモニー』から読んだんですけど、『ハーモニー』を読んだときにはもう病気だということを知っていましたし、すでに亡くなられていて。この作品は「予言的」というところと「生命」についての話、そして、「生きづらさ」に対するキーワードがあるなと思っていました。『ハーモニー』は女子的な圧力に「生きづらさ」を感じる人にピンと来る話だし、『虐殺器官』も似たような生きづらい感じに焦点を当てたような感じでしたし。僕も「生きづらい」ところを今の世の中に感じるので、すごく惹かれた部分がありますね。

――作品のどのようなところに面白さを感じましたか?

「生きづらさ」というテーマ的なところと物語の仕掛けとガジェットの3ミックスみたいなところです。それこそ、オリジナルアニメを作るときもそういうところを考えるんですよ。テーマは、最後にどこかで感じるくらいでいいので、実際の物語の語りだったり、躍動感だったり、そういうラインと「ガジェット」、つまり「嘘」ですよね。『天空の城ラピュタ』で言うところの「飛行石」みたいな。『虐殺器官』でいうと「虐殺の言語」だし、『ハーモニー』でいうと脳内の「ハーモニーシステム」。それが壮大なSF仕掛けだと、それ自体の説明に時間がかかるんですけど、なんとなく体感しやすいかなと。『攻殻機動隊』でいうところの「ゴースト」っていう言葉でピンとくるのかな? 「ガジェット」と「テーマ」の融合点に加え、「物語」という3つのセットが伊藤計劃さんの作品は非常によく出てきている原作だなと思いましたね。ただ、『虐殺器官』は「テーマ」に難解さがちょっとあったので、映画化するときにそこをまず整理しようというところからはじまりました。

――映画化するときに苦労された点はどこですか?

 プロジェクト全体でさまざまな苦労がありましたけど、文芸的な苦労でいうと村瀬修功監督がほとんど考えられたので、僕らは壁打ちの相手をしているみたいなところもありました。最初から難易度が高いなというのはわかっていましたし。例えば、子供を殺すこととか、そもそも非日常的なことに「慣れてしまうのか」という、三段階くらい飛躍した主人公の意識みたいなところを観客に「わかる」「わからない」と感じさせるところまで劇中で導かなきゃならない。それは、文芸的にはハードルの高い作業だと思いましたね。「甲子園に出たい」とか「好きな子に思いを伝えたい」とか、すぐに入れる話とは違って、どこに気持ちをチューニングしていけばいいのか、日常からかけ離れているので、そこまで持っていくのが大変な作品だったとは思います。

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――そもそも、この3作品を映像化するきっかけは何だったのですか?

 原作の『ハーモニー』がディック賞を取った時に行われた書店のイベントで、書評家の大森望さんが「アニメ化あるといいね」っていう話をされたらしく、その会場にいたファンから「ノイタミナでやればいいじゃん」という声が上がったことを、Twitterでわざわざメッセージをくれた人がいたんです。それで、「やれるのかな?」と思って担当者に聞いたら、「もうすぐアニメ化の権利が戻ってくる予定なので、そのタイミングでオファーを下さい」と。

――ファンからのメッセージがきっかけでアニメ化ということですか?

 そうですね。その話になる前に原作状況を1回、聞いていて。その時はアニメ化の権利を取られているって聞いていたので、出来ないと思っていたんです。ただ、そういう公のイベントで早川書房の人から話が出たと聞いたので、それは「やれるってことなのかな?」と思って聞いたら、「少し経てばやれますよ」という話だったので……。

――もはや「運命」ですね。

 Twitterでメッセージをくれたあの人は、一体誰だったんだろう? って今でも思っています(笑)。

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●制作会社の倒産からスタジオ新設までの険しい道のり

――そうやって実現したアニメ化ですが、今回の『虐殺器官』は制作会社の突然の倒産で一時制作中止の危機に陥られました。そのときの話を聞かせていただけますか?

 制作スタジオが倒産したのは突然だったんですけど、倒産のリスクがあることは知っていました。制作体制がぐちゃぐちゃなところもお金の部分で苦労していたのは知っていたので、かなり念入りにチェックはしていたんです。チェックとともに、現場の改善措置は当時から考えていて。普段、僕はこういうことはあまりしないんですけど、他の制作会社の仲間にまで頼んで、人を呼んだりしたりしてたんですよ。当時の状況を知っていた分、制作会社が倒産したとき、ほかのプロダクションに移して制作がすぐに再開できるという状態ではないこともわかっていたんですよ。

――どういう状態だったんですか?

 倒産して制作の現場が混乱していたので、素材や制作の状況が霧のなかで把握できない、という大きなハードルが1つ。また、『虐殺器官』の1年後に予定していた『GANGSTA.』というテレビアニメシリーズもスタッフが共通しており、『虐殺器官』の制作を再開するには、制作会社の外注先のアニメーターをはじめとしたスタッフたちに納得して続けてもらうため、『GANGSTA.』の支払いもしなきゃいけないかもしれない、という金銭的な問題のハードルもあり。あとは、フリーの人が大半なので、次の作品も大体決まっていたんですよね。そこをどう調整するか。メインスタッフが入れ替わるにしても、制作継続はそもそも可能なのか? といういくつもの問題があったんです。ですので、制作継続するためにあらゆる手を考えたというよりは、「この素材を持って大手のスタジオに手伝ってもらい、作り直してもらう」ということはまずないなということがはっきりしていたので、それなら「新設」するしかないと。新設するとなると、またお金の問題があって、お金の問題はフジテレビが払える種類のものではないので、ビジネススキームも特殊なものを組まないと駄目で。それが出来るかどうか、2週くらいかけて動いて、その線で行くとしたらこういう問題がある、というのを最後の1~2週間で潰して、約1ヶ月で再開のジャッジにまでこぎつけたんです。僕の人生でも1番大変だった時期でしたね(苦笑)。そこで燃え尽きました、僕のプロデューサー人生も。

――「諦める」ということは考えなかったんですか?

 諦めたときのダメージがデカイダメージだったので、「やりきって諦める」という選択肢はあったかなと思ったんですけど、ひとまずやれるだけやってみようと。そもそも、なかなか無理目な手でしたし。確率としては低かったけれど、白黒がつく時はスパっとつくっていうのもわかっていたんですよね。

――制作再開が決まって、立て直す際にキャストは決まっていたんですか?

 音はすでに録っていたので、そこはやり直していないです。

――アフレコのときの様子はいかがでしたか?

 いつも驚くのは、声優さんの技術の高さと読解力の高さ。特にアフレコのときなんて、見ている映像は真っ白なのでよくやるなぁと。僕はプロデューサーとしてアウトラインの把握はもちろんしていましたけど、はっきりとはわかってなかったと思いますね。声優さんも、絵がもっと出来ていれば違うこともできたと思いますけど、すごい手探りしながら、ただでさえ難解な話のどこにチューニングをあわせるか、軸を探してやっていったんだろうなと思います。声優さんの技術によって成り立っている作品はいっぱいあるんだろうなと思わされました。収録する作品をいっぱい抱えているなかで、ちゃんと作品を理解しているなと思いましたね。

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――作中では、生々しいシーンも多くあったと思うんですが、原作から抑えたりしましたか?

 この基準で収めるならこの辺でいこうとか、無用に抑えたりはしていないですね。とはいえ、そんなに激しくはないなとは思っています。僕はどちらかというと無用に気持ち悪いカットって、考査的によくてもやめてほしいなと思っていて。そういう意味でも『虐殺器官』は残虐さがカッコいいですね。

――なかでも印象に残っているシーンはありますか?

「子供が殺せますか?」というシーンです。いろんな意味で衝撃的ですし、あのシーンがピンと来るように作るのはすごく難しいと思っていたんですよ。衝撃性だけ足すなら殺したくないって思うようなビジュアルの子供をバンバン殺していけば、「うわ、嫌だ~」って思うと思うんです。でも嫌だと思わせるんじゃなくて、そういう心理状況にある種、追いつめられたけれど、もう一回覚悟して、「感情適応調整」という心理状況の悲哀がわかるという。あのシーンが転機となって物語が変わっていくので、あそこはうまくいったなと思いましたね。そこに至るまでのいろんな計算がうまく行っていないとダメなので。あと、タイトルが出るところもめちゃめちゃカッコいいです。

――アニメーターとしても有名な村瀬修功氏が本作で監督を務めていますが、村瀬監督はどのような印象ですか?

 アニメーターとしての評価はもちろん高いんですけど、とにかく文芸分析能力が高くて。普通、アニメは動かしてなんぼの形になることも多いんですけど、そういう感じじゃないんですよね。たぶん、アニメーターの仕事を封印して、監督の仕事をしても超一流の人だと思います。それを全部活かした作品はなかなかないと思いますけど、『Ergo Proxy(エルゴプラクシー)』の1話もフィルムとしてよくて。『虐殺器官』は、それに匹敵するくらいの村瀬さんの作品になっているんじゃないかなと思います。作品全体でいうと全部発揮するというのはなかなか難しいんですけど、村瀬さんの能力が可能な限り、いろんな領域に出ているものにはなってはいるんじゃないかなと。

――今後も村瀬監督と作品をやってみたいと思いますか?

 もちろんです。村瀬さんは僕が知る限り飛び抜けて能力が高い人です。ご一緒したいという気持ちはすごくあるんですけど要求値も高いので、それにこたえられるようにジェノスタジオを強化したいと思っています。全工程において、村瀬さんの技術を発揮する作品制作は至難の業だと思いますが、いつか見てみたいなと思います。

――主題歌をEGOISTが担当しますが、起用の理由を教えてください。

TVアニメ化作品では彼らに主題歌を頼んでいまして。『ギルティクラウン』も『サイコパス』も『甲鉄城のカバネリ』も。そこで今回もお願いしました。トレンドと、硬質な感じのいい融合がEGOISTにはあるので。ちょっと硬派なやつをお願いしています。

●「『虐殺器官』でどれだけ取り返せるかみたいな所が勝負です」

――『屍者の帝国』、『ハーモニー』、『虐殺器官』と3作品作り上げてみての今の心境はいかがですか?

 3作品の意義みたいなものは『虐殺器官』が完成して、はじめて語れるのかなと思います。また、『屍者の帝国』は円城さんが書き継いだみたいな1段別のストーリーがついているので、それはそれで特別なんですけど、伊藤さんの作品の魅力である「人を揺する感じ」や予言的な感じは『虐殺器官』があって、はじめて出てくるところがあるので、作品単体として考えると、お客さんに伝えたいところが少し失われたかなと思っています。

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――ということは、これまでの3作品を見てほしい順番としては、『虐殺器官』からということですか?

 お話としてつながっているからではなく、伊藤さんを知ってもらううえで『虐殺器官』から見てほしかったですね。トラブルがあったせいでそれが叶わなかったですが、意義を考えると、やっぱり……。話が戻ってしまいますけど、現状、トラブル続きで、マイナスなことの方が今のところ大きくて、『虐殺器官』でいい結果が出れば報われもするんですけどね。

――過去2作品の自分の満足度やこういうところを見てほしいという点はどこですか?

 ちょうど深夜に過去2作品をフジテレビで放送するので(※『屍者の帝国』は放送済)、それは見てほしいなと思います。でも、映画としては、興行収入はもう少し上がってほしかったので、正直満足はしていません。『虐殺器官』でどれだけ取り返せるかみたいな所が勝負ですかね。中身的にはお客さんが感じることなのですが、前売りの数字だけ見ても『虐殺器官』の反響はいいです。そういう流れでやれなかった所が残りの2作品に申し訳なかったと思います。

――最後に、ファンへメッセージをお願いします。

 なかなかふらっと入るような映画ではないので、すでに気になっている人にちゃんと届いていれば劇場に来てもらえると思うんです。原作ファンというよりは、この世の中に対してちょっと考えちゃうな、いろいろ思うことがあるな、というような人にこそ見てもらいたいので、アニメというカテゴリに関わらず、SFということにとらわれず、気になった人は、見に来てもらえれば、何かちょっと持ち帰るものがある作品にはなっているかなと思います。

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劇場アニメ『虐殺器官』公式サイト
http://project-itoh.com/

《超!アニメディア編集部》
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